【山行記録】 GW前半 常念縦走編 2日目 〔2011.04.29〕
縦走初日は酷いといえば酷い一日だった…だが決して最悪というわけでもなかった。
そんな激動の一日を終え、僕は燕山荘の床の中で思案をめぐらせていた。
それは、要訳してしまえばたった二つの、そして酷く単純な選択肢についてである。

『行くか』 『退くか』
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例えばここに50%の確率で当たるルーレットがあるとする。

賭け金は今あなたが持っているチップ全て。
当たれば持ち金は一気に倍に膨れ上がるが、もし外れれば全てを失う事になる。
仮に、今現在あなたが置かれている環境や状況を全て取っ払って、純粋にこのギャンブルのみを頭に思い浮かべた時…



あなたは 『賭けますか?』 『賭けませんか?』




もちろん持っているチップの額が100万円分なのか、1億円分なのか、それによって賭けるか賭けないかは左右されるだろう。
そして今回は前提条件で除外してはいるが、実際は今現在置かれた立場や状況というのは何よりも色濃く選択肢に反映される。
そもそも人間の思考は2分の1で割り切れるほど単純なモノではない。
だが事を決断するにあたり、その事象をどう考えるか?それによってその人の思考の一部を垣間見る事はできる。


『この賭けは、2分の1の確率で一攫千金を狙えるチャンス』

なのか

『この賭けは、2分の1の確率で全てを失う分の悪い賭け』

なのか…


当然ながら、こんな極端な例は世の中にそう転がっているものではない。だが傾向として、僕は全般的に後者寄りの思考をする人間だ。
至高の一手を打つ事よりも最悪の一手を打たない事を是とする。
即ち物事をまずリスクから考える、いわゆるネガティブなモノの考え方をする人間である。
果たしてどちらが優たモノの考え方であるかなどと議論する気は毛頭ないし、そもそも優劣などつけることは不可能である。
プラスにモノを考えようが、マイナスにモノを考えようが、成功する時は成功するし、失敗する時は失敗するのだから。

大変前フリが長くなったが、僕が燕山荘の床の中で考えていたのはリスク。そう…


縦走継続のリスクについてである。







リスクという意味では、僕はこの時点で既に詰んでいた。
この段階で僕が抱えていた致命的なリスクは以下。


・膝痛

・天候

・ゴーグル忘れ


まず膝痛。
まずというより、正直膝痛を発症してしまった時点で既に詰んでいたと言っても過言ではない。
ただし、膝痛の発症は元々想定に折込済みだったため、今回は大量に鎮痛剤を用意してきてはいた。
鎮痛剤さえ飲んでいれば決して歩けない事はなかった。しかし、これ以上悪化しないという保証はない。
そもそも鎮痛剤は所詮痛み止め。痛みを紛らわせてはくれるが患部が完治するわけではない。言ってみれば問題の先送りだ。
これから下山するならばともかく、薬に頼ってより奥地に入っていくという行為が果たして理性的な行為かどうか。
しかも向かう先は北アルプスの稜線だ。慣れ親しんだ里山とは違う。

それに加えて天候の悪化が入山時の予報よりも早まっていた。
当初5月1日の午前中くらいまでは天候がもつ予定だったのだが、入手した最新の天気図と予報を見るに、4月30日の午後には天候が悪化する可能性が非常に濃厚になっていた。
つまり30日~1日にかけての幕営は事実上厳しいものとなり、そればかりか30日の行動すらも危険を伴う可能性が出てきたということだ。

そしてゴーグルを忘れるという実に初歩的な凡ミス。
稜線上で昨日クラスの吹雪に見舞われた場合、サングラスではまともに目を開けていられない事は昨日既に確認した。
視界が確保できなくなれば進む事も戻る事も困難になる。
そして万が一稜線上で足止めを食った場合、幕営してビバークできないであろう事は昨日燕山荘のテント場で自ら立証してしまった。

何より、僕らがこれから向かおうとしている大天井、常念間の縦走路には安全なエスケープルートが存在しない。
入ったが最後、行くにも退くにも剥き出しの稜線から逃れる術はないのだ。
唯一の保険である大天井の冬期小屋だが、天候が悪化すればいずれにせよ雪の監獄と化し、天候回復するまで閉じ込められてしまう。
結局のところ、僕らが安全に縦走を継続するためには、少なくとも膝痛がこれ以上悪化することなく、天候も一定以上に安定していなければならないということになる。



つまり、単純に言えばそれは賭けだ。



膝痛が悪化するか、このまま悪化せずに日程を終えることができるかは5分5分。
最低でも稜線を歩いている時間だけも天候が安定していてくれるか、無常にも悪化するかも同じく5分5分。


ならば冒頭で触れたとおり、僕のとるべき道は自ずと決まっている。これは分の悪い賭けだ。
そもそも僕は僕自身の命だけでなく嫁の命も預かっているのだ、それらをbetするだけのメリットはない。
無論、冒頭の問いとは異なり、この賭けによって全てを…即ち命を失う可能性は2分の1ではないが、しかし何のトラブルもなく、五体満足で無事麓まで下山できる可能性も必ずしも2分の1ではない。
他人からすれば取越し苦労と笑われるかもしれない、しかし中には英断だったねと言ってくれる人もいるだろう。

ただひとつ間違いなく言えることがある。僕は今、五体満足でこうしてブログの執筆をしている。
それが全てであり、それに比べれば登頂だ撤退だなどという問題は極めて瑣末な話である。



そんなわけで…
御託はこのあたりでお開きにするとして、後は下山までに撮った写真をアップするとしよう。


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下山すると決まれば後は暢気なものである。
三脚を立てて腰をすえて写真撮影に集中する事にする。
そうするには最高のコンディションだった。下山するのが惜しいくらい、昨日の猛吹雪がまるで嘘のようだ。


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静寂を保っていた燕山荘も、少しずつ人の気配に満ちてきた。
皆、ご来光を待ちわびているのだろう。


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これが昨日僕が整地した件のテント場であるww
荒れ狂う吹雪の中、スコップ一丁で作ったにしてはまぁ上出来なほうだろう、下山中このテントの主に感謝されたw


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そして日は昇る。


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燕岳も徐々に染まっていく。染まり始めてからは秒単位で色が変化していくので見逃せない。
ちなみにこの写真に、昨日晩御飯をご一緒したもおすけさんとさぶちゃんが写っている。


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わかるかな??中央やや左。
この日の前夜、朝起きて燕岳一緒に登ろうと言っておきながら、結局燕岳のモルゲンロートの撮影をするために燕山荘に留まった僕。
一緒に行く約束は守れなかったけど、燕岳に登る姿を燕山荘から撮るという約束は間違いなく果たしましたよww



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そして綺麗に染まる燕岳…先ほどの写真と若干発色が違うのに注目。
刻々と色が変化する、どのタイミングで撮った写真をアップするかを苦慮してしまう、贅沢な悩みだ。


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大天井方面も綺麗だ。
あぁ、願わくばこの美しい稜線を縦走したかったが…多くは望むまい。





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モルゲンロートのパノラマ。





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燕岳から戻ってきたもおすけさんとさぶちゃんと4人で。
この時リンさんは燕岳行ってたのかな?小屋の中だったのかな?
5人で撮れなくて残念…。

その後、もう下山する事が確定していたため、急ぐ事もないだろうと小屋で1時間ほど仮眠。
少しのんびりしてから出発する事に。


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出発する頃には日も昇り、透き通るような綺麗な青空が広がっていた。
これから下るのが馬鹿みたいに感じるほどだ…だが一度下ると決めた以上、決断をコロコロと覆すわけにはいかない。
名残惜しいが燕岳に別れを告げ、一路中房温泉へと出発する。





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パノラマ





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槍ヶ岳もその穂先を晒し別れを告げてくれた。



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そして本来今日歩くはずだった稜線をバックに1枚。


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僕も一枚。
撤退を考え直して歩き出したくなる気持ちを抑え、中房温泉への下山路へ歩を進める。
しかしこの時点で既に槍ヶ岳は完全に雲に覆われていた。
雲足があまりにも早い…これはもしかしたら予想以上に早く荒れるのではないだろうか…?





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大天井への稜線。果たせなかった夢の道。






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名残惜しさに燕山荘を振り返る。そのたびに増える雲、暗くなる空…。

しかし何よりも驚いたのが以下の写真だ。


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この2枚の写真を撮影するまでに流れた時間はたったの13分。
凄まじい勢いで雲が増殖していく…これはちょっと、いくらなんでも早すぎるぞ。

先ほど別れたばかりのもおすけさん達の安否が気になってしょうがない。
まだ大天井までの稜線が覆いつくされたわけではないし、即座に昨日のような吹雪になるような感じも受けないが…しかし。
大天井までは夏道で3時間、冬のコースタイムだと4時間前後はみておく必要がある。
この空模様だと、さすがにどこかで吹雪にぶち当たるのは避けられないかもしれない…
ともかく、大天井の冬期小屋に無事辿り着ける事を、もしそれが叶わぬなら燕山荘まで無事戻られる事を祈る事しか僕らにはできなかった。

もおすけさん達は後日無事下山され、現在山行記録をブログにてアップ中である。


その後下山時に、僕のブログを読んでくださっている方とすれ違ったり、冒頭で紹介した整地跡にテントを張った方とお話したり。
行程はまるで遂行できなかったけれど、思わぬ出会いと、温かい交流の多い印象的な2日間だった。

こうして僕らのGW前半は幕を閉じたのである。






常念山脈縦走 燕岳にて撤退




大業なプランとは対照的に、今回の縦走は大変お粗末な結果になってしまった…

しかし、その結末が必ずしもお粗末の一言で片付けられるべきものでなかった事を後日知る事になる。
大半の方がご存知だろうが、4月30日の天候は全国的に大荒れ。それに伴い日本各地で山岳遭難の報がもたらされた。
奇しくも僕らが目指すはずだった常念でも遭難が、蝶ヶ岳でも滑落事故が発生していたのである。
結果的に、僕らは辛うじて最も安全に下山できる最後のタイミングで下山した事になる。


そもそも今回の山行、最初から最後まで全くと言っていいほど歯車が噛み合わない、気持ち悪い山行だった。
それも当然だったのかもしれない、そもそも回してはいけない歯車だったのだろう。
もし無理にあのまま進んでいれば、僕らの名前が遭難者リストに並んでいても何ら不思議ではなかった。

僕は運命やら迷信やらを心から信仰しているわけではないが、しかし人知の及ばぬ負の連鎖というのは時として確実に存在する。
だがそれとは反対に、意に反して偶然難を逃れるという幸運を知らぬ間に引き当てる事もある。

今思えば、マイナスに働いているかのように感じた事象の全てが、あの日僕らを押し留めるためのものだったのするならば、僕らが初日から巻き込まれていたのは負の連鎖ではなく、紛れもない正の連鎖だったのだと今になって感じるに至っている。
撤退せども、健やかであればそれで良い。山は変わらずそこにあり、生ある限り挑戦する機会は何度でも訪れよう。
また来年、あるいは再来年、次に訪れる時は心身ともに健全な状態で訪れたいと思う。


↓ 今回は残念な結果に終わった常念縦走、次こそは果たしたい。応援ポチをよろしく!(-´▽`-)

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by misawa_re7 | 2011-05-15 02:39


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