【山行記録】 初の冬期中央アルプス 難路池山尾根を経て空木岳へ… 1日目 〔2011.03.05〕
中央アルプス空木岳。
その美しい名の響きと、故郷に程近い山であるが故に、僕にとっては思い入れの強い山のひとつである。
そんな空木岳の冬期登頂を果たすべく、準備万端、池山尾根に取り付いた僕らだったが…
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2011年03月05日 (土) 天候:晴れ
【気温】 【麓】 -4℃ 〔AM7:00〕 【マセナギ】 -7℃ 〔PM8:00〕
【初日】 〔赤線〕 林道ゲート~空木岳登山口~タカウチ場~池山小屋~マセナギ(テント泊)


・ 高低差、距離、コース概要は上記の通り。
・ 地図上の通し番号は、これからブログに添付する画像の撮影したポイント。




冬の空木岳へ登ろう


僕がそう思い立ったのは年始の頃のことだった。
空木岳は僕が住む町から程近い、中央アルプスの主要な峰のうちのひとつである。
昨年の9月、持病の頭痛に悩まされながらもなんとか登頂を果たした空木岳。
その頂から見る中央アルプスの大パノラマを、積雪期に眺める事ができたらどれだけ素晴らしいだろう…
それが今回の冬空木山行の出発点だった。

ちなみに、一般的に無雪期の空木岳は木曽駒ヶ岳からの縦走者が圧倒的に多い。
空木岳単体で登る場合、長野県側から伸びる池山尾根を登ることになるのだが、距離も長く標高差も大きい事から、縦走者はもちろんの事、日帰りとしても敬遠される傾向にある。

そんな空木岳だが、厳冬期ともなれば、木曽駒ヶ岳からの縦走路は険しさを極めるため、入山者は激減する。
麓から伸びる池山尾根もその長大さゆえ日帰りは事実上不可能となり、容易に足を踏み入れることを許さない山域と化す。
だが、厳冬期の空木岳が静寂を保っている理由はそれだけではない。
空木岳に至る池山尾根は、ただ長大であるという理由だけで登山者を遠ざけているのではなく、その道中に 『大地獄』 『小地獄』 と呼ばれる痩せ尾根の危険地帯を有するのだ。
無雪期には階段や鎖が整備され、さほど険路と感じる事のない場所だが、ひとたび積雪すれば様相は一変する。
そのため、厳冬期の入山は避け、雪が安定し始める3月を待って今回山行計画を実行に移す事にしたのだった。



だが結論から言おう。今回の空木岳山行





いろんな意味で時期尚早であった





【AM3:00】
起床。眠りが浅く、寝覚めはあまりよくない。
と、言うのも、空木岳山行を決めてからこっち、『大地獄』 『小地獄』 のイメージが頭から離れないのだ。
空木岳、池山尾根には無雪期に一度行った事があるだけで、当然積雪期には足を踏み入れたことすらない。
あの垂直とも思える斜面に、一体どのように雪がつき、どれほどの難路になっているのか??
想像する事しかできないが故に、ただただ不安のみが膨れ上がっていく。
正直、『地獄』 の通過に比べれば、森林限界より上の稜線などそれほど気にも留めていなかったというのが現状だった。
念のため悪天候に備えてデポ旗を作成して持参したが、そんなことよりも地獄の通過の方がよほど懸念材料だったのである。


不安だけが膨らむ中、身支度を整え、前夜パッキングしたザックを無造作に背負う。

『……』

一瞬言葉が出なかった、やたらめったら荷物が重いのだ。
年末に仕事をやめてからしばらく自堕落な生活をしていたせいだろうか?筋力が落ちたのかもしれない…そう思いつつ体重計に乗る。
表示は93kg。
僕の体重は現在およそ62kg、それに着ている服が1kg程度と仮定したとして…



30kgかよ…



単独行でもないのに1泊2日で30kgってどんな馬鹿だよ…ww
アイゼン、ピッケル、ワカン、それにハードシェル類もザックに入ってしまっているから多少重いのは仕方ないとしてもだ。
とりあえずザックに括ってある三脚をポイ捨てし、カメラをD40に替えれば3kg程度は軽くできるが…考えるのはやめた。

元々どちらかというと軽量化には無頓着な僕だ。
ちょうど体も鈍っていた頃だ、少ししごき倒してやった方がいいのかもしれない。そんな風に考えたのだ。

今思えば、この時僕はある程度予感していたのかもしれない。頂を踏むことは叶わないのではないかと。
踏めぬのならばボッカ訓練で終わるのも止む無し。そう思っていたのかもしれない。




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【AM5:30】
最初の誤算はあまりに唐突に訪れた。(撮影地点1にて撮影)
まだあたりも真っ暗な時間、暗闇の中から僕らの眼前に突如として現れたのは重苦しいゲートだった。

下調べ不足と言われればその一言に尽きた。
ネットで3月に林道途中の駐車場まで車で入っているブログを読んだため、てっきり駐車場までは入れるものだと決め付けていた。
そもそもこんなところにゲートがあるなんていう意識が全くなく、雪さえなければ上まで行けるものと決め付けていたのだ。
その上、駐車場で雪に嵌まり、タイヤがスタックしてしまう。
スコップで雪を掻き出し、何とか車が脱出させるまでに30分以上のロスだった。




【AM6:30】
車を出発。ゲートをくぐり、ひたすら林道を歩き続ける。

しかしここであまりに初歩的な2度目の失態を犯す羽目になった。
途中登山道と思しき分岐があり、明瞭なトレースがそちらに伸びていたため、現在地も地図も確認することなくただ安直にトレースに従い登山道に進路をとってしまったのだ。
元々林道歩きは計画になかったため、全く下調べをしていなかったのが更に裏目に出た。


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やけに荒れた登山道だな、そう感じてはいた。(撮影地点2付近にて撮影)
しかしそもそも夏は林道を上り詰めて駐車場まで車が入れるのだから、このあたりの登山道は荒れていて当然か。
そう安直にも考えていた。

しかし気付くと沢がすぐ横に流れており、前方には堤防も見える。
さすがにおかしいと感じた僕は、この時初めてルートの確認をした。
しかし何度地図を眺めても、空木岳に通じる登山道は沢沿いになど伸びてはいなかった。完全な道間違いだ。


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致命的なまでのタイムと体力のロスを経て、僕らはようやく正規の登山道に到着した。


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【AM8:30】
空木岳登山口到着。(撮影地点3にて撮影)
出発からおよそ2時間、僕らはようやくスタート地点に到達することができたのである。


ちなみに現在林道の崩落により、無雪期であっても林道の終点であるこの登山口までは車で乗り入れることができない。
登山口から30分ほど手前に臨時の駐車場があり、無雪期はそこに車を停めて登り始めることになる。
当初の予定では、今回もそこまで車を乗り入れるつもりだっただけに、結果として1時間半前後のタイムロスだった。

今日中に 『大地獄』 『小地獄』 を越え、ヨナ沢の頭というポイントまで進む予定だったのだが…。
初歩的なミスの連続により、この時点でかなり厳しい状況に追い込まれていた。


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このあたりから登山道は雪に覆われていた。(撮影地点4にて撮影)
しかしまだトレースが残っており、かつ先週の雨、そして前日の冷え込みによりトレース面がカッチカチに凍結していたため、幸いな事にラッセル地獄を回避する事ができた。
不手際により無駄な体力を消耗していた僕にとっては嬉しい誤算だった。


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天気は最高、むしろ暑い。(撮影地点4にて撮影)
このあたりからは、鋸~農鳥までの南アルプスの稜線がくっきり綺麗に見えていた。


雪の状態は悪くない。
気温が上がるにつれて雪がやや緩み、重さに耐えかねてくるぶしの辺りまで沈むようになってきてはいたが、端っからラッセルを覚悟で来ていた事を思えばどうと言う事はない。
結局この日の行程の半分以上が固雪だったのは本当にラッキーだった。

だが鈍った体は実に正直だ。
息は上がるし、ほんの数cmの踏み抜きでもふくらはぎが悲鳴を上げる。
肩に食い込む30kgの荷は徐々に身体を蝕み、未だに足に合わない冬靴のせいで、小指の骨はミシミシと鈍い痛みを放っていた。
条件は悪くなかった、しかし状況は文字通りボッカ訓練の様相を呈していた。



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【AM10:15】
池山小屋分岐到着。(撮影地点5にて撮影)
この時点で息も絶え絶え、喉はカラカラ、ザックにつけてある350mlのマグポットの中の冷水はスッカラカンだった。
この分岐地点には水場があるが、凍結していて水など出ていないだろうと諦めていた。
しかし、なんと水場が生きていたのだ。


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水を汲むために、ピッケルで一心不乱に氷を砕く僕。
マグポットが入るだけのスペースを確保し、マグに水を汲み、ゴクゴク一気に飲み干す


あぁぁぁ、美味い!



何で山で飲む水ってこんなに美味しいんだろう…
身体の、いや細胞の隅々にまで行き渡るかのようだった。



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中央アルプスの天然水を飲みながら大休止。
もうむしろここにテント張ろうかなんて本気で考え始めていた。水場は目の前、避難小屋もすぐ近くにあるからトイレも使える。
なんと魅力的な提案なんだろう。

だがしかし、ギリギリのところで思いとどまった。
決して山頂に拘ったわけではない。
ただここで辛いからと投げ出してしまったら、この先どんな山に登っても弱音を吐いてしまいそうな気がしたからだ。
気力と体力を振り絞って、先へ進むことにする。


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ここからまた直登コースとハイキングコースに分かれている。
右が直登で左がハイキングコース、前回同様今回もハイキングコースを選択することにした。


歩き始めてしばらくはトレースがあったのだが、斜面を登っていくに従ってトレースは薄くなり、やがて消えた。
ここから正真正銘のラッセルである。
ラッセルと言っても雪はある程度固いし、もぐっても膝下くらいなのでそれほどキツくはない。
テンポ良く…というわけにはいかないが、時折息を整えながら斜面を登っていく。


ところが、斜面を登りきったあたりで登山道をロストしてしまったのである。
あたりは全く同じような景色、しかも真っ平らな雪原で地形的特長がなく、地図を見ても現在地を特定できない。
トレースもなし、赤布、赤旗も目の届く範囲には全くない。
というかこの辺り、非常に迷いやすい地形をしているわりに、あまりに目印が少なすぎるのだと思う。

地図とにらめっこ。方角にあたりをつけながら歩き、要所要所に赤布で目印を付けながら慎重に進む。
周囲の景色をくまなく見渡しながら歩いているため遅々としてペースが上がらない。このままでは埒が明かない。
4つほど赤布を打ったあたりで一度荷を置き、嫁と2人、空荷で周辺を偵察することにした。

ある程度方角にあたりをつけ、2方向に散る。
過去に2度ほど樹林帯で登山道をロストしたことがあるので、このあたりの作業は慣れたもんだww
15分ほどでようやく木につけられたペンキマークを発見することができた。
後でわかったのだが、結果としてほとんど夏道から外れてはいなかったようである。
いかんせんあまりに目印の数が少なすぎるのだ、まぁ他人の目印に頼っているようでは僕らもまだまだ青いということなのだろう。


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打った赤布は帰りに回収せねばならない。(撮影地点6付近にて撮影)
必然的に同じルートを通らなければならないので、ルートの基点となる部分にデポ旗を打った。
記念すべき一発目のデポ旗である。
本来稜線で使う予定だったモノだが、まさかこんなところで使う羽目になるとは思わなかった。



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【PM0:40】
マセナギ到着。(撮影地点7にて撮影)
マセナギとは文字通り 『薙ぎ』 即ち崩落した斜面の事を示す。
本来無雪期には登山道脇に笹が覆い茂っており、決して景色の良い場所ではない。
景色の良い斜面側に行くためには腰丈くらいの藪漕ぎをしなければならないのだが、基本的には斜面側に近づかないようにロープが張られているため、斜面の際まで行く人は滅多にいない。
しかし、積雪期には笹が全て埋まって小高い雪の丘になっているため、そこからの景色はご覧の通りだ。


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南アルプス側の展望も素晴らしい。
塩見から南、光までの展望が開けている。

ここで一旦ザックを下ろし、再び大休止をとる。
ラッセルが多少深くなった事もあるだろうが、一時登山道をロストしたことで精神的にも随分と消耗する羽目になった。
それに加えこの景色だ。ここで幕営し、のんびり景色を堪能しながら晩飯を食べたらどれほど気持ちいいだろうか?
僕の心は、もうここで幕営したらいいじゃないか、そう思い始めていたのだった。


当初の予定ではここから 『大地獄』 『小地獄』 を抜け、ヨナ沢の頭まで進むつもりであった。
マセナギからヨナ沢の頭までは無雪期のコースタイムで1時間30分。
ここから更に雪が深くなる上、危険箇所の通過という事で倍以上の時間がかかると想定される。
最低でも通過に3時間。大目に見繕って3時間半はかかるだろうと僕は考えていた。

現在PM1:00ジャスト。
順当に進んだとして、到着予定時刻は4時過ぎということになる。
ちなみにここを過ぎてしまうと、あとはほとんど急峻な痩せ尾根な為、ヨナ沢の頭まで幕営可能な場所はほぼ皆無である。
つまり出発したら最後、ヨナ沢の頭に到達するか、あるいは再びここに戻ってこない限り幕営はできないと考えなくてはならない。

しかしここに幕営した場合、明日の空木岳登頂はかなり厳しいものになる。
僕は悩みに悩んだ末、明日の空木岳登頂の可能性を少しでも残すため、気力と体力を振り絞って先に進む事にした。



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嫁が高所が苦手なため、できるだけ崩落面側から離れ、夏道の赤テープに従って斜面をトラバースする形で進む。

しかし先に進むにつれ、徐々に斜面が急峻になり、しかも部分的にかなり凍結しているためキックステップで確実にステップを刻まなければ滑落する危険性が出てきた。
しかもこの斜面、写真を見てもらえばわかる通り途中から急激に斜度を増し、下のほうはほぼ垂直になっていて上からではどこまで落ちていくのかさっぱり見当がつかない。
ブルっと背筋が寒くなる。さすがにツボ足にストックではまずい…。


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結局一度平坦な場所まで戻り、アイゼン、ピッケルを装備して先に進む事にした。トータルで30分ほどのロス。


アイゼンとピッケルのおかげで安定感は増したのだが、やはり予想通り雪が深い。
基本的には膝下、吹き溜まりになるとももまで埋まる。
比較的雪の固い面を選んで進むが、ここまでに消耗した体力と気力が、ペースを上げる事を許さない。
一歩一歩が重い…全然前に進まない。

先程のロスにより、時間的猶予はかなりギリギリの瀬戸際と言わざるを得ない。
そしてこの消耗しきった体力と気力で、本日一番の危険箇所を通過しなければならない…。


冷静に考えろ、無理だ。


急峻な斜面を前に一瞬 『死』 を意識したことが、奇しくも僕に冷静な判断力を取り戻させた。
無理をするのは今、この時ではない。
山頂に至る事ができるかどうかは別にして、やはり核心部は気力体力が充実し、少しでも荷が軽い状態で通過すべきだ。
マセナギから30分ほど斜面を登ったのだが、結局マセナギまで引き返すことに決めた。



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そうと決まれば焦ることはない。
目の前に広がる南アルプスを堪能しながらゆっくりマセナギまで下っていく。
気が抜けたらドッと疲れが押し寄せてきた。


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設営場所は景観重視。
斜面からの風の影響を受けやすい場所だったため、キッチリペグダウンする。


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1時間弱でテント設営を完了し、暫しの休息。
最後まで西日が当たる場所に設営したので、テント内はポカポカ暖かく、一瞬で眠りに落ちた。



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その後、南アルプスのアーベンロートを見ながら晩御飯。
至福の一時だ。

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そして日も暮れ、徐々に山は静寂の闇の中に沈んでいった。
誰もいない、僕らだけの山。完全にこの山域には僕らしかいないのだ。
静けさと、寂しさと、えもいわれぬ開放感。そして明日への期待と不安を胸に秘め、僕らは眠りに就いたのだった。


果たして僕らは無事空木岳へ登頂する事ができたのだろうか??


難路池山尾根を経て空木岳へ… 2日目へ続く


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by misawa_re7 | 2011-03-09 08:31 | 山行記録 2011


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