【山行記録】 GW登山 涸沢再び! 残雪の涸沢カールへ 往路後編
4月28日に、涸沢撤退を決めたこの場所へ、僕らは再びやってきた。
期待と不安を胸に、あの日踏み出す事のできなかった第一歩をようやく踏み出すことができる。
止まっていた涸沢への時の歯車は再び廻り始めた。
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2010年5月4日 天候:晴れ
上高地~涸沢ルート(上高地~明神~徳沢~横尾~本谷橋~涸沢ヒュッテ)

・ 高低差、距離、コース概要は上記の通り。
・ 地図上の通し番号は、これからブログに添付する画像の撮影したポイント。




その日、上高地はとても穏やかな朝を迎えていた。
上高地バスターミナルに到着し、タクシーから降り立った時、そこはGW真っ只中とは思えないほど静まり返っていた。
聞こえてくるのは街の喧騒でもなく、人の声でもなく、ただ鳥の囀りだけだった。
空は薄雲に覆われ、朝日は地上まで届かない。ところどころ朝靄に覆われていて、逆にそれが幻想的ですらあった。

忘れもしない、4月28日。あの日の上高地もひっそりと静まり返っていた。
そして、止みそうに無い雨がしとしとと降り続いていた。
しかし今日はあの日とは違う。晴れてこそいないが空にかかる薄雲は悪天の予兆は孕んではいない。
あの日のやり直しのため訪れた僕達を、どうやら涸沢は受け入れてくれそうであった。


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タクシーを降り、一旦バスターミナルのベンチに荷物を置き、身支度を整える。
準備運動も欠かせない、特に奥茶臼の時に痛めた股関節は、未だかすかな痛みを残しているため油断はできない。
足回りを入念にストレッチし、28kgという膨大な荷物に耐えなければならない上半身も、今回は特に入念にストレッチした。

バスターミナル到着から程なくして、5:15頃バスが一台到着して登山者と思しき人たちが何人か降りてきた。
路線バスの始発は6:00頃だったはず、松本からの直行バスだろうか?
静まり返っていたバスターミナルに活気が溢れる。
せっかく誰よりも早く上高地入りしたのだ、もたもたしていては時間がもったいない。
出発前に食べる予定だったおにぎりをポケットに突っ込み、ヨッシャと気合を一発入れて上高地バスターミナルを後にした。

長い長い1日の始まりであった…。


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【AM5:40】
上高地バスターミナルを出発。途中河童橋に寄り、記念撮影。(撮影地点1にて撮影)
4年ほど前、一般観光客としてここで記念撮影をしたのだが、まさか山を登るために再びここに訪れる事になるなどと、誰が予想できただろう。
人生とはわからないものである…。


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河童橋より穂高連峰。(撮影地点1にて撮影)
今日僕らが目指す涸沢カールは、あの絶壁のような穂高連峰を挟んで真反対側に位置する。
故に梓川沿いを3時間ほど歩いて迂回せねばならない。それこそが涸沢を長時間ルートたらしめている原因である。
いつまでも眺めていたいくらい美しい景色だが、あまり長居するわけにもいかない。早々に出発する。


ここ上高地からは、明神、徳沢、横尾と、それぞれ山荘やロッジがあり、宿泊やテント泊をする事もできる。
各区間のコースタイムは、計ったかのようにおよそ1時間づつで、休憩を入れながら歩くにはちょうどいい間隔である。




【AM6:40】
明神到着。コースタイムどおり、およそ1時間で到着した。
順調なコースタイムとは裏腹に、28kgの荷物が早くも僕に影響を及ぼし始めていた。
重量バランスが悪かったのだろうか?、右腕に血が通わず、感覚が鈍くなっていた。
一度ザックを下ろし手にマッサージを施すと同時に、バンド類を再度調整し、右側にだけ加重が偏らないように調整した。
早くもこれでは先が思いやられる…。
奥茶臼で傷めた股関節も万全とは言いがたく、果たして無事涸沢まで登りきることができるのだろうか??
まだ見ぬ涸沢への期待とは裏腹に、不安は募るばかりだ。


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明神岳を横目に、ただただひたすらに歩き続ける。(撮影地点2にて撮影)
明神橋や、明神池から見る事のできる非常に特徴的な形をしている山、明神岳。
写真で最も特徴的に映っている左側のピークが明神岳だと思っていたのだが、そもそも明神岳には1~5峰までの5つのピークがあるようだ。
明神から最も象徴的に見えるピークは明神5峰。厳密には明神岳の主峰は最も右の1峰の事を示している。
知らなければ間違いなくこの5峰を明神岳だと勘違いする。一般観光客は特に、この5峰を明神岳と覚えて帰っていくと思う。
そういう意味では明神岳の主峰である1峰は不憫な山とも言える…。


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徳沢手前より、明神岳と前穂高岳。(撮影地点3にて撮影)
左から明神5峰、4峰、3峰、主峰、少し間を空けて前穂高岳である。
明神槍とも呼ばれる明神2峰は、若干わかりづらいが3峰と主峰の間にぽつんと頭を出しているのがそれである。


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梓川に映る、明神と前穂。(撮影地点2にて撮影)
この辺りから天候は回復の兆しを見せ始め、青空も顔を覗かせるようになってきた。



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【AM7:40】
徳沢到着。(撮影地点4にて撮影)
早朝のバスターミナルとは異なり、非常に賑やかな場所だ。
前日涸沢から下山してきた人が多いのだろうか?結構な数のテントが張られていた。

この辺りから青空が出始め、気温も上昇してきて少々暑くなってきた。
明神でザックの調整をしたおかげで、右腕にはしっかり血が通うようになっていた。
しかし絶対的に重量が重いため、肩にはどっしりと負担がかかっている。
10分ほど休憩をして、足早に目的地へ急ぐとする。


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なんかいたww(撮影地点6にて撮影)
誰かの落とし物だろうか??
うちのザックについているクマもこうなってしまわないように、落としてきていないか確認をして歩き始める。


しばらく歩くと新村橋の分岐に到着する。
ここから橋を渡ると奥又を経由してパノラマコースを経て屏風の頭、涸沢へ到達するコースになっている。
奥又というと、なぜか僕の中では漫画 『岳』 の11巻の第7歩で、クミちゃんがパトロール中に挨拶した青年が直後に滑落死した場所というイメージが非常に強い。
危険なルートなのだろうか??


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このあたりになると雄大な前穂がメインになってくる。(撮影地点7にて撮影)


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横尾に近づくにつれて、屏風岩が眼前に広がるようになる。(撮影地点8にて撮影)




【AM9:00】
横尾到着。
時間的に涸沢から下山してきた人たちが多いのだろう、非常に賑やかである。
ほとんどのベンチが登山者で埋まっているため、仕方ないので橋の下のテントサイトのベンチを借りて休憩することにした。
相変わらず荷物が肩に重くのしかかり、体力を奪っていく。
気温もどんどん上昇しているため、水分消費量もどんどん増えていく…。
ハイドレーションに2リッター強の水を持ってきてはいるが、下手をすると涸沢までもたないかもしれない。

およそ3時間の長い平地歩きはここで終わり、ここからついに上りになる。
涸沢までの高度を一気に稼ぐため、それなりに急登であろう。
一度靴を脱いで軽く足をマッサージし、ここからの長い上りに備える事にする。


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横尾付近から屏風岩。(撮影地点9にて撮影)
国内最大級の岩場である。
しかしこの岩を登る人たちがいるというのだから驚きだ。僕にはちょっと考えられない。


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屏風岩を迂回するように回りこんでいく。(撮影地点10にて撮影)
屏風岩をいろんな角度から見る事ができてこのあたりは楽しい。奥にこっそり北穂高岳が見えている。


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このあたりから残雪もだいぶ増えてきた。(撮影地点10にて撮影)
途中倒木や道幅が狭い場所もあり、涸沢方面から下ってくる登山者とのすれ違いに時間を食ってしまい思うように進めない。
トレースを外すと荷物が重いせいもあり、膝くらいまで足が埋まってしまう事も多く、必要以上に時間と体力を消費してしまった。


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雪面のトラバースが2,3箇所ほどあった。(撮影地点11にて撮影)
しっかりとトレースがついているので滑落する心配はまずない。
仮に滑落してもそれほど斜度があるわけでもないし、高度があるわけでもないので問題ないだろう。
しかしこういう場所が出始めたということはそろそろアイゼンを装着しなければならないということだ。




【AM11:20】
本谷橋付近到着。
本谷橋といっても橋のようなものは見当たらず、ここが本谷橋という場所なのかも定かではない。
今年は雪が多いからだろうか??
樹林帯を抜けたため雪がだいぶ多くなってきたのでアイゼンをつける。
ここまでのコースタイムは1時間なのだが、実に倍の時間を要してしまった。
歩きづらかった点、荷物が多くペースが上がらなかった点、そして下山者とのすれ違いで時間がかかったという点を考慮すると、倍の時間がかかるのは仕方ないのかもしれない。

このあたりで、屏風岩方面から10分おきくらいに雪崩の音がしていた。
僕は雪崩の音というのを今回初めて聞いたのだが、もっとこう鈍いような重いような音を想像していたのだ。
しかし実際雪崩の音は思いのほか高く乾いた音で、まるで岩が当たって砕けるような音がするのである。
不思議な感じがした。


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さぁ、ここから本格的な残雪登山である!(撮影地点12にて撮影)
先行する登山者がまるで米粒のように小さく見える。
彼らですら、涸沢までまだまだ軽く2時間以上かかることだろう。
正面に北穂高岳を据えながら、これから延々続くであろう残雪の上りに覚悟を決めた。


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雪は腐り、ザラメ雪となっており、しっかりアイゼンを利かせたつもりでもズルズル滑ってしまう。(撮影地点12にて撮影)
しかもトレースの幅が狭く、かつ下山者のトレースが非常に多いため歩幅が広い。
これに合わせて登ろうとすると足の関節群に必要以上の負荷がかかってしまうと思われた。
特に僕の場合は股関節に爆弾を抱えたまま歩いているのだから、必要以上に一歩一歩慎重に歩いた。

このあたりから嫁のペースが目に見えてダウンしてきた。恐らく荷物の重さから来るバテだろう。
僕も相変わらず荷物は重いが、上り斜面になってようやく少し楽になってきた。
前傾姿勢で歩くため、今まで肩にかかっていた荷重が多少腰の方に分散しているのが楽になった要因だと思う。
しかし嫁の場合はそうでもなかったらしく、とにかくペースを落として歩く事で体力温存に努めていた。
まだまだ先は長いのだ。無理をして行動不能になることだけは避けなくてはいけない。


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再び前穂が見えてきた。(撮影地点13にて撮影)
とはいえここからはまだまだ歩かなければならない。
広大な雪原は距離感を奪い、歩いても歩いても全然進んでいないように錯覚させる。
現に歩いても歩いても景色がほとんど変わらない。下手に先が見えている分辛い。
ガンバレ、ガンバレ!と自分と嫁を奮い立たせながら、一歩一歩つま先を雪面に蹴りこんでいく。


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時折歩を止めて呼吸を整える。(撮影地点14にて撮影)
歩く、止まる、息を整える、時々水を補給。これの繰り返し。
正直荷物が重い。
下が雪だから、関節群にかかる負担は軽減されているが、とにかく体力がどんどん消費されていくのがよくわかる。
休憩ごとにたらふく行動食を摂るが、全然追いついていない感じ。
今まで白駒池や北八ヶ岳縦走と、何度か20kg以上の荷物を担いで歩いたが、ここまで体力的にキツイと感じたのは今回初めてだ。
やはり28kgは伊達じゃなかった(;´Д`)


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ようやくその視界に涸沢ヒュッテを捉えた!!(撮影地点15手前にて撮影)
若干見づらいのでズーム。

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やっと見えた!
しかし待て、手前に見える黒い塵みたいなのが人か??




どんだけ小せぇんだよ(;´Д`)


下手に先が見えてしまった分、そこまでにいたる距離も理解してしまった。
せっかく奥穂が綺麗に見えているのだが、景色を堪能している余裕が全然ないのは皮肉な話だ。
ザックを投げ捨てて走って駆け上りたい衝動に何度駆られた事か…。


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一度見えた涸沢ヒュッテだが、再度斜面の影に隠れた。(撮影地点15にて撮影)
むしろこれでいい。下手に先など見えない方が余計な事を考えずに済むというものだ。

日は高々と頭上に昇り、何も遮るもののない雪原では痛いほどの日差しである。
気温はどんどん上昇し、僕らからなけなしの体力を削り取っていった。
それにしても皮肉なほどに美しい奥穂高岳である。
この時この景色を存分に満喫できるだけの余裕が自分に無かった事が恨めしいくらいだ。


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嫁のペースが目に見えて低下してきた。(撮影地点15にて撮影)
普段から僕が先行して引き離してしまう事は多々あるが、今回はそれに輪をかけて遅れていた。
もうヒュッテは見えたのだから後ちょっとと言いたいところだが、実際あとちょっとじゃないから下手に励ます事もできない。
気力と体力の勝負になってきた…。


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そしてついに手が届きそうな距離まで上ってきた!(撮影地点16にて撮影)
しかしぬか喜びをしてはいけない…


実はここからが本当に長い('A`)


いや、実際の距離はそれほど長くは無いはずである。
しかしここまで張り詰めてきたものが、眼前にヒュッテを捉えた事で、気が抜けて疲れが一気に押し寄せてくる。
その状態での上りはなかなか厳しい。
そして実はこの最後の斜面は結構の斜度があるので余計に辛いのだと思う。


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ヒュッテのこいのぼりも肉眼で捉える事のできるところまできた!
あと少し!あと少し!と嫁を奮い立たせつつ、最後の急登を一気に駆け上がる!




【PM2:00】
ついに涸沢ヒュッテに到着。
到着するや否や、テントサイトにザックを投げ出してぶっ倒れた。
この時、僕は達成感というよりは安堵感の方が強かった。何のトラブルもなくここ涸沢まで来る事ができてよかった…と。
その証拠に、到着してから涸沢ヒュッテで一服するまでの写真を僕は一枚も撮影していない。
それほどに余裕がなかったということか…。

コースタイムは以下。

【AM  1:30】 起床
【AM  3:00】 自宅を出発
【AM  4:00】 松本ICを通過
【AM  5:00】 沢渡駐車場到着
【AM  5:25】 上高地バスターミナル到着
【AM  5:40】 発
【AM  6:40】 明神到着
【AM  6:50】 発
【AM  7:40】 徳沢到着
【AM  7:50】 発
【AM  9:00】 横尾到着
【AM  9:20】 発
【AM 11:20】 本谷橋(?)到着
【AM 11:40】 発
【PM  2:00】 涸沢ヒュッテ到着


総評

予想以上の好天に恵まれ、展望も素晴らしく、気持ちのよい上りになった…はずだった。
気温上昇により腐ったザラメ雪は決して足場としては良い状態とは言えず、タイムロスと体力消耗を早める結果となった。

しかし何より今回のキモは荷物の重量だったと思う。
無謀とも思える28kgの荷物だったわけだが、辛いながらも何とか涸沢までの上りを踏破することができた。
嫁も16kgという荷物は過去最重量だったにもかかわらず、多少股関節に痛みを発症しながらも弱音を吐かず上りきる事ができた。
普段から体力づくりのために、日帰り山行の際に荷物に重りを入れてトレーニングをしてきた成果が出たのではないだろうか?
しかしもう少し荷物が軽ければ、余裕を持って景色を楽しみながら登る事もできたのではないかという疑問も残る。
しかしテント泊である以上、そこまで劇的な軽量化は望めまい。
荷物を思い切り軽量化し、山の風景を余裕持って楽しむのならば、山小屋泊というのもまたひとつの答えだなと思った。
何にせよ、何度も心が折れそうにはなったが、これといったトラブルもなく無事涸沢まで登れてよかった。


これにて涸沢往路 前後編は終了です。
現在涸沢テント泊 雪上訓練編の画像編集中ですので、ブログアップまでは今しばらくお待ちください。


そんなわけで…涸沢テント泊 雪上訓練編へ続く


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by misawa_re7 | 2010-05-15 01:03 | 山行記録 2010


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